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高松高等裁判所 平成5年(ワ)232号 判決

原告(二三二号事件)

秦一義

外一四名

原告(一三七号事件)

山本弘

外二一名

右原告ら訴訟代理人弁護士

小亀哲治

松田敏明

幸田勝利

被告(両事件)

宗教法人福成寺

右代表者代表役員

堀寿奘

被告(両事件)

日蓮正宗

右代表者代表役員

阿部日顕

右被告ら訴訟代理人弁護士

小長井良浩

中村詩朗

西村文茂

多田徹

高田憲一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立て

一  原告ら

1  被告らは、連帯して、別紙損害一覧表(一)の番号一ないし一二及び同(二)の番号一ないし三の原告らに対し、それぞれ右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する平成五年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、連帯して、別紙損害一覧表(一)の番号一三ないし三二並びに同(二)の番号四及び五の原告らに対し、それぞれ右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する平成六年四月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被告ら

1  本案前

本件各訴えを却下する。

2  本案

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

(一) 別紙契約一覧表(一)記載の原告ら(以下「契約原告ら」という。)は被告福成寺の信徒である。同(二)記載の契約者五名(以下「契約者五名」という。)は、同じく信徒であったところ、橋本庄吉は平成四年一〇月七日に、川邉寅夫は昭和六一年一二月二三日に、平尾梅之助は昭和五七年一〇月三〇日に、鈴木一夫は本訴提起後の平成七年八月一五日に、高橋アキノは同じく平成八年五月二五日にそれぞれ死亡し、橋本庄吉については原告大西晢子が、川邉寅夫については原告川邉真が、平尾梅之助については原告朝倉ヨシ子が、鈴木一夫については原告今田久子が、高橋アキノについては原告兼田光恵がそれぞれ祭祀を承継した。

(三) 被告福成寺は、宗教法人法に基づき昭和二八年四月二七日設立された宗教法人であって、被告日蓮正宗に包括される関係にあり、別紙物件目録記載の各土地を墓園に造成して((以下「本件墓園」という。)、これにより墓地を経営している。

(三) 被告日蓮正宗は、宗教法人法に基づき昭和二八年七月四日設立された宗教法人であって、被告福成寺を包括する関係にある。

2  墓地永代使用契約の締結及び墓石の設置並びに契約関係の承継

(一) 契約原告ら及び契約者五名は、被告福成寺との間で、それぞれ、別紙契約一覧表(一)及び同(二)の「契約日(使用許可日)」欄記載の日に、本件墓園のうち同「墓地番号」欄記載の区画の墓地について、墳墓を設け固定的、永久的かつ支配的に使用することを目的とする墓地永代使用契約(以下「本件墓地使用契約」という。)を締結し別紙損害一覧表(一)及び同(二)の「永代使用料」欄記載のとおり永代使用料を被告福成寺に支払った。

(二) 別紙契約一覧表(一)の番号二、三、八ないし一二及び一六ないし三二の原告ら並びに同(二)の番号一ないし三及び五の契約者らは、それぞれ、右各一覧表の「墓石建立日」欄記載の日に、別紙損害一覧表(一)及び同(二)の「墓石代金」欄記載の費用をかけて、右契約に係る墓地上に墓石を設置した。

(三) その後、前記のとおり契約者五名が死亡し、同人らの本件墓地使用契約上の権利義務を、祭祀を承継した前記原告らがそれぞれ承継した。

3  被告福成寺の損害賠償責任等

(一) 不法行為責任

(1) 詐欺による不法行為

墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」という。)によれば、墓地を経営しようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならず(一〇条)、その許可を受けていない区域での死体の埋葬及び焼骨の埋蔵は禁じられ(四条)、これに違反した者は罰金等の刑罰に処せられる(二一条一号)から、右区域の土地を墓地として使用することは法的に不可能であるところ、被告福成寺の元住職日比野慈成(本件墓園造成当時の住職)、前住職志岐長道(日比野の後任)及び現住職掘寿奘(志岐の後任)は、本件墓園を経営するためには右の許可が必要であることを知りながらこれを受けていなかったのに、その事実を秘し、あたかも本件墓園につき右許可を受けておりそれが法的に墓地として使用できる土地であるかのように装って契約原告ら及び契約者五名を騙し、その旨同人らを誤信させて使用権設定の申込みをさせ、本件墓地使用契約を締結させた。

(2) 過失による不法行為

仮に右詐欺の事実が認められないとしても、被告福成寺は、本件墓園により墓地を経営しその使用契約を締結するに当たっては、墓埋法所定の経営許可を受けた上、本件墓園を法的に墓地として使用することが可能な状態にしておくべき注意義務があるのに、日比野ら歴代住職は、これを怠り、許可の有無につき検討確認することなく、漫然と契約原告ら及び契約者五名に本件墓地使用契約を締結させた。

(二) 債務不履行責任

(1) 被告福成寺は、本件墓地使用契約に基づき、原告らに対し、墓埋法所定の経営許可を受け本件墓園を適法な墓地として継続的に使用させる義務を負っているところ、これを履行しない。

(2) 被告福成寺は、本件墓園の造成以来約一九年が経過しているのに右許可を受けていないし、許可がなくても本件墓園を墓地として使用できる旨強弁しているから、右履行について催告することは無意味である。仮にそうでないとしても、原告ら(原告今田久子、同兼田光恵の関係ではそれぞれ元原告鈴木一夫、同高橋アキノ。次の(3)及び(三)(3)においても同じ。)は、福成寺に対し、平成五年六月送達された第二三二号事件の訴状及び平成六年四月送達された第一三七号事件の訴状により、履行を催告した。

(3) 原告らは、平成六年六月一六日の本件口頭弁論期日において、被告福成寺に対し、本件墓地使用契約を解除する旨の意思表示をした。

(三) 瑕疵担保責任

(1) 本件墓園は、墓埋法所定の経営許可を受けていないため、適法に墓地として使用することができないところ、契約原告ら及び契約者五名は、そのようなことを知らず、本件墓園が墓地経営を専門とする寺院によって造成され、かつ、その使用契約の募集が行われたことからして、知らなかったことに過失はないから、右のとおり墓地として使用できないことは、本件墓園の隠れた瑕疵というべきである。

(2) 契約原告ら及び契約者五名は、墓地として使用するため本件墓地使用契約を締結したものであるから、右瑕疵があるため、契約の目的を達することができない。

(3) 原告らは、被告福成寺に対し、平成五年一二月二二日、同六年三月一二日及び同月二三日に到達した各書面により、本件墓地使用契約を解除する旨の意思表示をした。

4  被告日蓮正宗の不法行為責任

被告日蓮正宗は、包括宗教団体として、末寺が墓地を造成・経営することについての事前承認、その経営状況等の報告徴求、その報告を基にした宗費賦課金の徴収、末寺住職の人事・監督・懲戒等、末寺に対する監督権限を有しており、末寺である被告福成寺が本件墓園を造成しこれを経営していること及びその経営につき墓埋法所定の許可を要することも知っていたから、被告福成寺に対し、本件墓園につき経営許可を受けているかどうかを確認し、受けていなければ速やかに許可申請をすること及び許可があるまでその経営を差し控えることを指示・指導すべきであったのに、これを怠り、許可の有無を確認しないまま、漫然と被告福成寺の違法墓地経営を放置した。これは、被告福成寺の不法行為に加担した共同不法行為に当たる。

5  原告らの損害等

(一) 契約原告ら及び契約者五名は、被告らの共同不法行為及び被告福成寺の債務不履行等により、前記の永代使用料及び墓石設置費用相当の損害を被り(永代使用料は、契約解除の関係では、原状回復義務の履行として、被告福成寺から返還されるべきものである。)、また、信仰心の上から絶対の信頼を寄せていた被告らに裏切られ刑罰を科せられる可能性のある違法行為に加担させられ続けたこと、無許可墓地に大事な親族の焼骨を埋蔵させられこれを移動せざるを得なくなったことなどにより、多大の精神的苦痛を被ったが、これに対する慰謝料としては各金一〇〇万円が相当である。

(二) 契約者五名の右損害は、同人らの死亡により、祭祀を承継した前記原告らが承継した。

6  本訴請求

よって、原告らは、被告らに対し、次のとおり金員の支払を求める。

(一) 被告福成寺に対する請求(次の(1)又は(2)による選択的請求)

(1) 不法行為に基づき、別紙損害一覧表(一)の番号一ないし一二及び同(二)の番号一ないし三の原告らは、それぞれ損害賠償として右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する損害発生の後である平成五年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、別紙損害一覧表(一)の番号一三ないし三二並びに同(二)の番号四及び五の原告らは、それぞれ損害賠償として右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する損害発生の後である平成六年四月二九日から右同様の遅延損害金。

(2) 主位的に債務不履行、予備的に瑕疵担保責任に基づき、別紙損害一覧表(一)の番号一ないし一二及び同(二)の番号一ないし三の原告らは、それぞれ解除による原状回復義務の履行(永代使用料)及び損害賠償として右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後(永代使用料の支払後)である平成五年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(永代使用料については利息)、別紙損害一覧表(一)の番号一三ないし三二並びに同(二)の番号四及び五の原告らは、それぞれ解除による原状回復義務の履行(永代使用料)及び損害賠償として右各一覧表の右番号に対応する「損害合計額」欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降(永代使用料の支払後)である平成六年四月二九日から右同様の遅延損害金(利息)。

(二) 日蓮正宗に対する請求

右(一)(1)と同じ。

二  被告らの本案前の主張(訴権の濫用)

1  被告日蓮正宗と創価学会(以下「学会」という。)は、同被告が日蓮大聖人以来その教義を伝える僧侶を中心とした宗教団体であるのに対し、学会は在家の立場から右教義を社会に展開させていく在家信者より構成された同被告の信徒団体である、といえる関係にあったが、平成二年ころから、学会の最高指導者である池田大作が同被告伝統の法義・信仰を改変しようとしたため、同被告と学会が対立するようになり、これに端を発した同被告の宗規改正で、同年一二月池田大作が法華講総講頭職の資格を喪失し、同被告は、平成三年一一月学会を破門し、更に、平成四年八月池田大作を信徒除名処分とした。

2  学会は、右資格喪失以来、被告日蓮正宗の信用を失墜させる目的で、機関誌である聖教新聞その他の出版物を利用し、あるいは右翼団体、学会員らを動員して、組織的に、同被告ないしその総本山大石寺法主、末寺の各住職ほか同被告所属の僧侶並びにその宗教活動に対し、いわれのない誹謗中傷、暴力行為を繰り返し、更に、司法機関を利用して同被告の信用失墜を図るべく、学会員らをして、三〇都道府県で、墓埋法一〇条違反を理由に同被告の末寺住職らに対する七四件に及ぶ告発をさせ、かつ、被告ら及びその関係者に対する九五件に及ぶ民事訴訟(本件訴訟もその一つ)を提起させている。

3  右民事訴訟のうち本件を含む一二件は、寺院の墓地、納骨堂が無許可経営であることを理由に損害賠償を求めているものであるが、その墓地・納骨堂は、いずれも墓埋法の保護法益である国民の宗教感情、公衆衛生等に適合するものであって、無許可とはいっても、行政手続上の形式的かつ軽微な瑕疵にすぎない。そして、学会ないし学会員は、従来、被告日蓮正宗の末寺の相当数が墓地・納骨堂の経営許可を受けていなかったことにつき、何ら問題としていなかったが、学会が同被告から離脱するや、無許可を奇貨として、これを同被告に対する攻撃材料に利用し、損害賠償訴訟を提起したものであり、その請求原因も、債務不履行のみでなく、被告寺院の反社会性を強調して詐欺を冒頭に掲げている。また、学会員は、寺院外護の責務を負う寺院信徒として、無許可を知った場合、寺院及び自己の墓地を護るべく、直ちに寺院と協力して瑕疵の治癒に努めるべき立場にあるにもかかわらず、寺院と何らの協議もすることなく、直ちに訴訟に及ぶという、非常識かつ短絡的な行動をとったものである。

4  本件については、右3のほかに、次の事情がある。

(一) 被告福成寺は、平成五年六月一六日、琴平町長に対し、本件墓園について墓地経営の許可申請をした。ところが、琴平町議会議員である原告西浦猛は、右申請に対抗し、同月一九日、「福成寺の違法行為を糺す地域住民の会」の代表者として、「違法墓地、納骨堂経営に対する停止要望書」を琴平町長に提出した。また、原告大西晢子は、その本人尋問において、被告福成寺に対して、墓地を適法に使用できるようにしてもらいたいというよりも、住職からの事情説明、謝罪及び損害(墓地を使用しないことを前提とするもの)の賠償を求めたい旨供述している。要するに、原告らは、被告福成寺の無許可を非難し、同時に許可取得に反対して自分の墓地の使用停止を求めるという異様な行動に出ているものであって、これは同被告に対する学会員としての敵対行為そのものというほかない。

(二)(1) 被告福成寺は、右許可申請に際し、本件墓園周辺住民のうち一四名の承諾書を添付したが、琴平町長は、同町の「墓地経営の許可に関する要綱」に「墓地の周囲おおむね二〇〇メートル以内の土地所有者および家屋所有者ならびに各地区住民の代表者すべての承諾書」を添付することと定められ、その所有者等は四九名であるのに、全員の承諾書が揃っておらず、右一四名のうち三名が承諾を撤回しているとして、申請を不受理とし、申請書を同被告に返却した。

(2) 被告福成寺は、琴平町長に対し、学会員の妨害のため全員の承諾書を得ることは困難であることを説明し、承諾書が揃わないままで許否を審査するよう求め、平成五年一〇月八日、再申請をした。ところが、琴平町長は、円満な行政執行を望み、前記のとおり停止要望があり、本件訴訟(二三二号事件)も提起されていたことから、再申請書を「預かり」として、正式に受理せず、承諾書を完備するよう指導した。そこで、被告福成寺は、平成七年三月九日、右「預かり」行為につき不作為違法確認の行政訴訟を提起したところ、琴平町長は、同年七月一〇日、再申請を受理するに至った。

(3) 被告福成寺は、右受理後、琴平町長の要請に応え、信徒の協力を得て、同年八月七日までに、右要綱に定める周辺住民の八〇パーセントに相当する三九名の承諾書を同町長に提出した上、これ以上の承諾書を得るのは学会員の妨害により不可能であること及び右要綱の定めは許可要件ではないことを申し入れ、早急に許否の処分をするよう求めた。

(4) これを知った地区の学会員ら(少なくとも原告西浦猛を含む。)は、承諾書作成者らを訪ね、「承諾書を提出すると、後日裁判所から呼び出される。」などと言って、執拗に承諾の撤回を迫り、右三九名の大半の者をして、承諾撤回書を琴平町長に提出させるという妨害工作をした。

(5) 琴平町長は、公聴会を開くなどして調査した上、前記要綱の定めが許可要件ではないこと、要綱所定の承諾書が得られないのは、周辺住民らが本件墓園の存在そのものに反対しているからでなく、前記の対立による紛争に巻き込まれたくないという住民の心情によるものであることを正しく把握認識し、平成七年一二月二〇日、右妨害にもかかわらず、本件墓園の経営を許可した。

5  以上の次第で、本件訴訟の真実の目的は、被告日蓮正宗の信用を失墜させるための攻撃にあって、本件訴訟の提起は、私権の行使に名を借りて訴権を濫用するものにほかならないから、本件訴えはいずれも不適法として却下されるべきである。

三  本案前の主張に対する原告らの答弁

1  原告らは、いずれも学会員であるという共通点はあっても、それぞれ自らの意思で本件訴えを提起したものである。そして、被告福成寺と本件墓園の使用契約を締結した学会員は、原告らのみでなく他にも居るから、契約をした学会員全員が被告らに対する訴えを提起しているわけではない。また、被告らのいう誹謗中傷、暴力行為は、その真偽自体が不明であるし、原告らと全く関係のないことである。したがって、本件訴訟が学会による組織的なものであるという実体は存在しない。

2  被告福成寺は、本件墓園につき墓埋法一〇条所定の経営許可を受けていないことを指摘された以上、信徒である使用権者のために、違法状態を解消する努力をすべきであったのに、許可がなくても本件墓園を経営できる旨強弁し、その後、検察庁を含めた行政当局が許可を要するとの見解を示したことから、専ら本訴を有利に運ぶ目的で、同被告代表者が懇意にしている町議会議員に依頼し、周辺住民の承諾を取り付け回って許可申請をするという無責任な態度に終始し、行政訴訟まで提起して琴平町長を威圧するなど、なりふり構わぬ手段に出て、許可を受けるに至ったものである。原告らは、被告ら主張のような妨害行為をしたことはないし、右許可は、あくまで事後的なもので、これにより過去の違法状態が解消されるわけではない。

3  以上の次第で、被告らの本案前の主張は、自らの違法行為を棚に上げて議論をすり替え、本件の争点を不当に歪めるものであって、失当というべきである。

四  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の各事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、原告朝倉鉄夫、同川崎美喜子、同角田政子、平尾梅之助に係る墓地番号の点、固定的、永久的かつ支配的との点及び支払金が永代使用料である点は争い、その余は認める。

右墓地番号は、原告朝倉鉄夫が三〇〇番、同川崎美喜子が二二四番、同角田政子が一六三番、平尾梅之助が二三一番である。

(二)  同2(二)の事実は争う。

(三)  同2(三)の事実は認める。

3  同3の事実のうち、本件墓園につき墓埋法一〇条所定の経営許可を受けていなかったことは認め、その余はすべて争う。

4  同4の事実は争う。

5  同5の事実は争う。

五  被告らの本案の主張

1  本件墓園使用の適法性等

(一) 被告福成寺(寺院)は、延享二年(一七四五年)の建立と伝えられ、遅くとも宝暦四年(一七五四年)には境内地に墓地を開設し、以来、二四〇年余にわたり、寺院墓地として設営してきた。この墓地は、明治政府の下で定められた墓地法制以前からの境内墓地であって、明治六年一〇月二三日太政官達第三五五号墓地及埋葬取締規則により、被告福成寺の境内地全部が「永久墓地」として認められたので、現行の墓埋法二六条により、同法の経営許可を受けたものとみなされているものである。本件墓園は、昭和五一年、右のとおりみなされた境内地のうち寺院建物移転跡地部分に墓地を拡張して造成したものであって、従前の墓地の一部にすぎないから、これにつき墓埋法所定の経営許可は必要でないというべきである。

(二) 現に本件墓園の造成(墓地拡張)当時、墓地経営許可事務を担当する琴平町保険衛生課も、被告福成寺からの墓地経営許可に関する照会に対し、本件墓園のような境内墓地については墓埋法所定の経営許可は不必要であるとの見解を示していた。また、被告福成寺は、本件墓園につき右許可は必要でないと考えていたものの、平成四年ころから学会による組織的な告発及び訴訟提起が続発したことから、いたずらな混乱を避ける意味で、許可を得ておくこととし、その準備のため、代表者が琴平町保険衛生課に赴いて相談したところ、「お寺さんでも、こういう許可書なんかいるんですか。」と反問されるなどした。更に、本件墓園は、その造成(墓地拡張)後、一七年にわたり、契約原告ら並びに契約者五名及びこれを承継した原告らからはもとより、周辺住民からも、その経営につき何らの異議を申し出られることなく、墓埋法の保護法益である国民の宗教感情及び公衆衛生に適合した墓地として、平穏無事に使用されてきた。要するに、被告福成寺は前記のとおり墓埋法一〇条所定の経営許可を受けたのであるが、本件墓園は、許可前の段階でも、何ら問題とされることのない適格地であったし、客観的に許可が得られることが確実なものでもあって、仮に、法律的には許可が必要であったとしても、無許可の状態は行政手続上の軽微な瑕疵にすぎず、当初から、墓地として使用することに格別の支障はなかったのであり、許可を受けたことにより、その支障は完全になくなった。なお、右許可は、それを受けるまでの前記経緯からして、原告らが無許可を問題とし始めたころに得ることができたはずであったが、原告ら側の妨害により遅延したものである。

(三) 以上の次第で、被告福成寺は、本件墓園の経営につき許可は必要でないと認識していたものであり、そのことについては相当の根拠があったから、原告ら主張のような詐欺や過失などなく、また、本件墓園は、経営許可の有無に関係なく、当初から、事実上も法律上も墓地として使用することが可能であったから、原告ら主張のような債務不履行及び隠れた瑕疵もない。

2  権利濫用

前記本案前の主張における事情からして、本訴請求は、権利の濫用に当たり、許されるべきではない。

六  本案の主張に対する原告らの認否

すべて争う。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録・証人等目録に記載のとおり。

理由

一  まず、被告らの本案前の主張について検討するに、平成二年ころから被告日蓮正宗と学会が対立するようになったこと、以来、全国各地で、学会員らが、被告日蓮正宗ないしその末寺及びそれらの関係者に対し損害賠償等を求める訴訟を提起し、あるいは墓地・納骨堂を経営している右末寺の住職を墓埋法違反(無許可経営)の罪で告発していること、原告らはいずれも学会員であり、少なくとも原告らの一部の者は本件墓園に関し被告福成寺代表者を告発していることは、証拠に照らして明らかであり、これらの訴訟及び告発が右対立に伴う攻撃的な色彩を帯びるものであることは否定し難いと思われる。しかしながら、本件墓園につき墓埋法所定の経営許可を受けていなかったことは当事者間に争いがないところ、その無許可経営は、実質的な面から違法かどうかという問題はあるにせよ、それ自体、決して軽視できるものではないから、原告らが、無許可経営を咎め、これと本件墓地使用契約との関係を問題として本件訴えを提起したことをもって、訴権の濫用であると断定することは到底できない。

二  そこで、本案につき検討する。

1  請求原因1(当事者)の各事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因2(一)(本件墓地使用契約の締結)の事実は、原告朝倉鉄夫ら四名に係る墓地番号、使用権の態様及び支払金の性質の点を除き、当事者間に争いがない。

3  日比野慈成ら被告福成寺の歴代住職が、本件墓園の経営につき墓埋法所定の許可を要することを知りながらこれを受けていなかったのに、その事実を秘し、あたかも許可を受けているかのように装って契約原告ら及び契約者五名を騙したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告福成寺に詐欺による不法行為責任があるとする原告らの主張は、その前提を欠き、失当というべきである。

4  証拠(乙二・三及び九の各一及び二、乙八、乙一三、乙一四の一及び二、乙一五の一ないし一〇、乙一八の一ないし七、乙二〇及び二一、証人日比野慈成、原告黒田達巳、同木村悟、同大西晢子、被告福成寺代表者、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(1)  被告福成寺(寺院)は、延享二年(一七四五年)の建立と伝えられている。別紙物件目録記載の各土地は、一体となった被告福成寺の境内地で、本堂その他の寺院建物が建てられ、空地部分は約一〇〇基の墓石が設置された墓地となっており、周囲は田地で、近辺には民家がほとんどなかった。この墓地は、遅くとも宝暦四年(一七五四年)には開設され、今日に至っているものであり、その間、何の問題もなく維持・利用されてきた。

(2)  被告福成寺は、昭和五〇年ころ、右土地上の本堂等が老朽化したことなどから、これを取り壊して、約五〇〇メートル離れた別の土地に本堂等を新築したが、その際、信徒らの要望により、取り壊した跡地を、従来の墓地を拡張する形で本件墓園に造成した。当時は、周辺に民家ができていたが、まだ疎らであった。

(3)  本件墓園の造成に関与した当時の被告福成寺住職日比野慈成その他の関係者は、墓埋法について詳しいことを知らず、本件墓園が寺院の境内地であり従来の墓地を拡張したものであることから、その経営につき許可が必要であるとは考えていなかった。その後任住職志岐長道も同様であった。契約原告ら及び契約者五名も、本件墓園の経営許可が必要かどうかについて問題意識すらなかった。そのため、本件墓地使用契約が締結された際には、被告福成寺側から許可を得ているかどうかを説明したことはなかったし、契約原告ら及び契約者五名も、許可の有無等を被告福成寺側に確認するなどのことはせず、たがいに、そのまま本件墓園を使用できるものと考え、そのことについて何の疑問も抱かず、現に長らくその使用が続けられ、その間、香川県や琴平町から措置・指導等もなく、使用について全く支障はなかった。

(4)  その後、学会員である原告らは、被告日蓮正宗と学会の対立についての報道等から墓埋法のことを知るに至って、本件墓園につき許可を得ていないことを問題とし、本件訴訟(二三二号事件)を提起した。そのため、被告福成寺代表者は、許可申請をすることとし、おおむね被告ら主張(前記本案前の主張4(二))のような経緯で、平成七年一二月二〇日、許可を受けた。

(5)  本件墓園については、その造成以来、墓埋法の立法目的である「国民の宗教感情」及び「公衆衛生その他公共の福祉」の観点から適切を欠くといえるような事情はない。

(二)  右認定の事実関係によれば、本件墓園は、その造成当時から、墓埋法上の墓地としての適格性を有し、同法一〇条による経営許可を受けるについて格別の障害はなかったと認められるから、これを墓地として使用するにつき、事実上何ら支障がなく、また、法律上も実質的違法性があったとはいえず、原告らが引き続き使用することは当然可能であったというべきである。

したがって、被告福成寺に原告ら主張のような過失があったとはいえず、また、同主張のような債務不履行及び隠れた瑕疵があったともいい難い。

5  原告らの主張する被告日蓮正宗の不法行為責任は、被告福成寺に不法行為があることを前提とするものであるところ、右のとおり被告福成寺に不法行為があるとは認め難いから、被告日蓮正宗につき不法行為は成立しないというべきである。

三  結論

そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官山脇正道)

別紙契約一覧表(一)(二)〈省略〉

別紙損害一覧表(一)(二)〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

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